すべての記事 ヨーロッパの「新たな」文化都市ガイド

ヨーロッパの「新たな」文化都市ガイド

アート、デザインなどの分野で最先端になりつつある都市をご紹介します。

Paul Jebara
著者:Paul Jebara2024年7月30日 12分で読める
スペイン、バレンシアの芸術科学都市
スペイン、バレンシアの芸術科学都市
画像提供: travelview/Getty Images

パリバルセロナローマは今でも文化の中心に君臨していますが、観光客であふれているというのも現状です。人混みを避けてヨーロッパらしい雰囲気を肌で感じたいなら、人気上昇中の都市に狙いを定めるのがおすすめ。太陽が降り注ぐバレンシアからエッジの効いたマンチェスターまで、まだあまり知られていないこれらの都市では、多彩なアート、音楽、イノベーションに触れることができます。さっそく荷物をまとめ、好奇心を研ぎ澄まして、ヨーロッパの新たな文化の中心地に出かけてみては。歴史と流行が融合した都市には、いまだに観光客よりも地元の人々の姿のほうが多く見られます。

バレンシア(スペイン)

こんな人におすすめ: エコ志向で建築好きな旅行者

今アツい理由: 2024年、ヨーロッパの「グリーン・キャピタル」に選ばれたバレンシア。2019年にオープンした地元で人気のセントラル公園など、美しい緑地に加えて、のんびり散歩するのに最適なレイナ広場など、新たに歩行者天国となったスポットもあります。屋内施設では、カラトラバ風の未来的なデザインの芸術科学都市内にあるカルチャーセンター、カイシャフォーラムは必見。アート、科学、テクノロジーを融合させた、魅力的な展示が満載です。2026年には、バレンシアでゲイゲームズが開催されます。それまでの間、LGBTQ+の旅行者へのおすすめは、活気あふれる「ガイサンプル」。ザ・ミューズやヌンカ・ディホ・ノーなどのお店があります。

毎週水曜日には、改装した宮殿の英語ツアーが行われており、この場所ならではの作品を案内してくれます。そのうちの1つ、エントランスホールに展示されているトマス・サラセノの作品、「コロナ・アウストラリス38.89」は、ミュージアムの5つのフロアにネオンの輝きを投げかけています。さらに、億万長者の実業家であるオルテンシア・エレーロ氏のコレクションには、ジョアン・ミロ、アレクサンダー・カルダー、現代写真家のアントニオ・ヒルベスなど、約50人のアーティストによる作品が含まれています。時間をかけて見て回った後は、バレンシア中央市場でひと休みしながらエネルギーをチャージするか、近くのトレンキャット・ドルク・イ・サラートに腰を下ろして、スムージーを飲みながらサンドイッチをつまむのがおすすめです。

その他のおすすめ情報

アテネ(ギリシャ)

ギリシャ、アテネ、ワン&オンリー・エステシスのスイミングプール

こんな人におすすめ: 歴史好きで、海岸で過ごしたい人

今アツい理由: アテネには新たな歴史が刻まれ、アテネ・リビエラは華やかな新時代を迎えています。約64kmにおよぶ沿岸地域を80億ユーロを投じてリニューアルするエリニコン・メガプロジェクトには、ヨーロッパ最大の海岸公園とギリシャ初の超高層ビルの建設が含まれています。リニューアルの完了は2026年ですが、ヴォウリアグメニの新しいアスティル・マリーナには高級ブティックが立ち並び、華やかな世界を垣間見ることができます。デザイナーズブランドのショッピングに興味がなくても、近くのアスティル・ビーチ・クラブで一日を過ごした後や、治癒効果があると言われているヴォウリアグメニ湖を訪れた後に、夕日を眺めに立ち寄ってみては。リビエラでは、ラグジュアリーなグランピング体験が人気の91アテネ・リビエラやオープン間近のエース・ホテル・アンド・スイム・クラブといったホテルも注目を集めています。魅力を増しているのは郊外だけではありません。アテネの歴史ある港町ピレウスでは、古くからある漁業用の倉庫を利用して、カーワンザ・インターミッションといったアートギャラリーが新設されました。

外せないスポット:ハイパー・ハイポ

モナスティラキにあるこの本屋は、訪れる人をアテネのディープでクリエイティブな世界へと誘ってくれます。アートとともに地元の歴史も扱った限定版の雑誌、ザ・シシー・プロジェクトを探してみて。毎週40部しか発売されないので、発売当日の早い時間帯に行くのがおすすめです。詳しくはスタッフに尋ねてください。お店に行ったら、イベントカレンダーをもらうのをお忘れなく。朗読会や展示が数多く計画されていて、アテネの活気あるアートシーンの奥深さに触れられます。多くのイベントはギリシャ語で開催されるため、心配な場合は事前に言語を確認しておくといいでしょう。

その他のおすすめ情報

ブダペスト(ハンガリー)

ブダペスト、ハンガリー国立歌劇場の観客席
ハンガリー国立歌劇場
画像提供: Rob Tilley/Getty Images

こんな人におすすめ: 建築やオペラが好きで、温泉にも入りたい人

今アツい理由:2023年に誕生から150周年を迎えたブダペストでは、都市全体で建築物のルネサンスが始まり、現在も続いています。ブダとペストを結ぶ有名な鎖橋は、2023年8月に再開通し、ライトアップされた国会議事堂とキャッスル地区の素晴らしい夜景を望むことができます。キャッスル地区の改修工事は2030年まで続きますが、ブダ城と周辺の施設はガイド付きツアーで訪れることができます。(近くのケーブルカーからは、パノラマビューを楽しめます。)現代的な雰囲気を味わいたいなら、著名な建築家、藤本壮介氏が設計を手がけたハウス・オブ・ミュージックへ。地下のサウンド・ドームでは、臨場感あふれる音を体験できます。

外せないスポット:ハンガリー国立歌劇場

2021年に大規模な改修が行われ、ハンガリー国立歌劇場が満を持して再オープンしました。この見事な劇場では、週に6晩、古典的なオペラから最先端のバレエまで、さまざまなショーが上演されており、合間にはガイド付きのツアーも行われています。さらに、チケットはわずか5ユーロから。学生、シニア、ファミリーまで楽しめます。チケットを取っていなかった方や予算があまりない旅行者は、開演時間の数時間前に格安の立ち見チケットを購入することもできます。公演の合間には、地元の人のようにテラス席で人間観察をしたり、ハンガリーのシャンパン、ペジュグーを味わったりするのも楽しみの1つです。

その他のおすすめ情報

ウィーン(オーストリア)

オーストリア、ウィーンのハウス・オブ・シュトラウスで演奏する人たち

こんな人におすすめ: クラシック音楽ファンで、前衛芸術にも興味がある人

今アツい理由:ウィーンの文化シーンでは、新しいものと古いものが見事なシンフォニーを奏でています。インタラクティブなハウス・オブ・シュトラウスは、シュトラウスの遺産に現代的なアレンジを加えたミュージアムとして2024年にオープンしました。最近では、約200年の歴史を持つアルベルティーナ近代美術館の建物が増築され、現代美術の限界に挑戦し続けています。「多様性の美」展が開催されたほか、2024年秋にはマルク・シャガールの回顧展が予定されています。しかし、ウィーンがヨーロッパの文化交流を促進する場になる兆しが本当に見えたのは、今年初開催されたクリマ・ビエンナーレでしょう。世界で初めて気候変動に焦点を当てたアートフェスティバルは、環境に優しい未来を目指し、都市をキャンバスに見立てて、各国のアート、デザイン、建築、科学を融合させました。

歴史あるカジノ・ツェーゲルニッツ内にある広さ約2000平方メートルのスペースでは、あらゆる年齢のゲストが、感覚を駆使してウィーン音楽の黄金期を体験できます。お子様にバーチャル・オーケストラの指揮体験をしてもらう間、オクタゴン・ルームでウィンナー・ワルツの歴史に触れることができます。アプリをダウンロードして、シュトラウスの末裔の1人がナレーションを務める音声ツアーを利用するのがおすすめ。まるで、上質でロイヤル感のある解説を聞きながらプライベートツアーに参加しているような気分になります。その後は、施設内のレストラン、カジノ・クリナリウムで、シェフのステファン・グランシュニヒ氏による洗練されたウィーン料理を堪能できます。

その他のおすすめ情報

ジュネーブ(スイス)

スイス、ジュネーブ近郊にあるCERNのグローブ・オブ・サイエンス・アンド・イノベーション
CERNのグローブ・オブ・サイエンス・アンド・イノベーション
画像提供: olrat/Getty Images

こんな人におすすめ: 科学と時計とスイーツが好きな人

今アツい理由: ジュネーブは、外交や高級時計の中心地という堅苦しいイメージを脱ぎ捨て、科学、芸術、贅沢が融合した遊び場へと変貌を遂げています。チョコレート好きなら、ガイド付きツアーに参加するか、街中の厳選されたチョコレートショップで試食ができる市主催のチョコパスを購入するのがおすすめです。アート好きなら見逃せないのが、美術・歴史博物館の「フルイド・アーキオロジー」展(2024年10月まで)。変性意識状態を探求し、従来の認識を揺るがす試みです。もうしばらく、じっくり考えたいなら、国際赤十字博物館の「人道についての対話」展を見学してみては。世界的な人道支援の取り組みに関する心を打たれる展示です。

アインシュタインが設計し、レンゾ・ピアノが建設し、ビル・ナイが案内してくれる科学のテーマパークを想像してみて。それがCERNのサイエンス・ゲートウェイです。ミニチュアの粒子加速器で遊んだり、量子エアホッケーに挑戦したり、量子カラオケで歌ったり。半日はたっぷり遊べます。

その他のおすすめ情報

マンチェスター(イギリス)

イギリス、マンチェスターのファクトリー・インターナショナルで開催されている、草間彌生の「あなたと私と風船」展
ファクトリー・インターナショナル
画像提供: Christopher Furlong/Getty Images

こんな人におすすめ: 音楽通とLGBTQ+の旅行者

今アツい理由: マンチェスターはリミックスで成功を収め、世界中で注目を集めています。新しくできたファクトリー・インターナショナルは、テート・モダンのよりクールな北部バージョンといったところ。マンチェスターの風を感じるアートスポットです。コープ・ライブでのイベントも待ちきれません。地元の有名人、ハリー・スタイルズが開発に関わったこのメガアリーナは、街の伝説的なミュージックシーンをパワフルに盛り上げていくことでしょう。マンチェスターの魅力は、ピカピカの新しいものだけではありません。先駆的な平等運動からアラン・チューリングの残した功績まで、この街にはLGBTQ+の歴史が織り込まれています。楽しい夜を過ごしたいなら、レインボー色の中で気ままな時間を満喫できるザ・ビレッジへ。一方、ノーザン・クォーターには、インディーズ・ショップや圧巻のストリート・アートが多く、1日でも飽きずに過ごせます。グルメ好きなら、ぜひアンコーツ地区に足を運んでみて。かつては産業が盛んなエリアでしたが、今では、ミシュランの星を獲得したレストラン、マナやにぎやかなワインバーが並んでいます。カルチャー好きなら、マンチェスター博物館に新設された南アジアと中国のギャラリーは興味深いはず。さらに、メイフィールド・パークは、コンクリート・ジャングルの中に100年ぶりに作られた緑のオアシスです。

斬新なオペラやいろいろと考えさせられる舞台を鑑賞するもよし、大胆なアート作品の展示を見るもよし。過去には、草間彌生氏による魅惑的な巨大水玉模様のインフレータブル作品が展示されました。また、マトリックスにインスパイアされたダニー・ボイル氏による刺激的なダンスショー、「フリー・ユア・マインド」(巨大なウサギが登場することで知られる)が上演されたこともあります。

その他のおすすめ情報

アントワープ(ベルギー)

アントワープ王立美術館の展覧会

こんな人におすすめ:ファッション通や美術愛好家で、建築にも興味がある人

今アツい理由: アントワープは、昔ながらのイメージを一新しています。街を見渡せば、中世のギルドホールと並んで、ザハ・ハディド氏が手がけた、上部の構造がダイヤモンドを思わせる有名なポート・ハウスなど、現代建築の傑作がそびえ立っています。一方で、アントワープ王立美術館(KMSKA)は11年間の改修工事を経て、巨匠の作品と現代アートが融合した、見事な美術館に生まれ変わりました。ルーベンスの家では、地元の有名ファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテンが手がけた新しい庭園が公開されました。厳選して植えられた1万7,000本の植物が、一年中目を楽しませてくれます。アントワープの都市の進化を垣間見るには、再開発されたセント・アンドリュース教会地区へ。かつては目立たないエリアでしたが、今ではクロースター通り沿いにデザインショップやおしゃれな飲食店が集中しています。グリーン・クォーターにあるPAKTもお見逃しなく。かつての工業団地が、再開発により、サステナブルな都会のオアシスに生まれ変わりました。屋上庭園で採れた新鮮な農産物は、カジュアルなピッツェリア、スタンダードやミシュランの星付きレストラン、ザ・ジェーンなど、施設内のお店で提供されています。

洋服がしゃべるとしたら、モード博物館は世界で最もおしゃべりな美術館でしょう。3万5,000点のアイテムが揃う、ファッショニスタの夢のクローゼットです。ラフ・シモンズやアン・ドゥムルメステールなど、「アントワープ・シックス」と呼ばれる有名ファッションデザイナーを紹介しているだけではありません。ミュージアムの常設展示は毎年入れ替えられ、現代ファッションと歴史的なファッションの両方について、ベルギーの視点から新鮮な見方を示してくれます。

その他のおすすめ情報

ナポリ(イタリア)

イタリア、ナポリのマドレ美術館の外観
マドレ美術館
画像提供: Management/Tripadvisor

こんな人におすすめ:純粋にピザを楽しみたい人、現代アートが好きな人

今アツい理由: ナポリにはいつの時代も反骨精神がありましたが、今ではそのエネルギーを本格的な文化ルネッサンスに向けています。たとえばリオーネ・サニタは、かつては市内有数の治安の悪いエリアでしたが、今では街で最もクールなスポットになりました。カタコンベ・ディ・サン・ジェナーロの日曜日の「ホーリー・マイル」ツアーをお見逃しなく。ナポリのイメージが変わる地下のアドベンチャーです。アート好きに必見のスポットは、マドレ美術館。19世紀の宮殿を利用した3階建ての現代美術館には、急進的なアルテ・ポーヴェラ運動からアニッシュ・カプーアの傑作まで、さまざまな作品が展示されています。新旧の融合をさらに楽しみたい方は、 メイド・イン・クロイスターを訪れてみては。16世紀に建てられた修道院を21世紀になって改装したこの建物は、2024年10月に開催される「EDITナポリ」デザインフェアの会場の1つとなります。ナポリの文化革命は美術館にとどまらず、その影響はピザにまで。コンチェティーナ・アイ・トレ・サンティのテイスティングメニューからオリバ・ダ・カルラ・エ・サルヴァトーレの独創的なパイまで、ピザも1つの芸術です。

外せないスポット:ヴェスヴィオ山へのハイキング

チルクムヴェスヴィアーナ鉄道でナポリからエルコラーノまで行き、そこからシャトルバスに乗って、ヴェスヴィオ国立公園の入り口まで行きます。1時間弱のそれほどきつくないトレッキングですが、頑張った以上の感動が待っています。登るにつれて、絵はがきのように美しいナポリ湾が眼下に広がり、頂上では、くすぶる噴火口をのぞくことができます。晴れた日には、ソレント、カプリ島、イスキア島まで見渡せます。この景色は、旅が終わってもずっと心に残るはずです。

その他のおすすめ情報