大阪観光の有名どころはすでにまわったので、レビューの高さにつられ一抹の疑いと怖いもの見たさにこのツアーに申し込んでみた。終わった感想としてはツアーの名前にも他の方のレビューにも嘘はなかった。
その日のツアーガイドの Andy さんはもともと海外出身のバイリンガルで、気さくな人柄に、夜目がよく利いて、人の少ない裏通りにとても詳しい人だった。ツアーの参加者に訪日客が多いこともあって、まずは彼自身が体験した日本の宗教や生活の不慣れを紹介しつつ、普段なら取るに足りな些細なことに対しても都度丁寧に背景を説明してくれた。そのおかげで、知っているはずのことが改めて指摘されて納得する気持ちと、外国からの視点への驚きが入り混じり、一見何気ない説明のなかでも新鮮な発見が続いた。
このツアーは(繁華街だけではなく夜の住宅地も歩いて紹介するので)日によってルートを変えるうえ、途中でガイドから奢ってくれる食べもののお店もその場で決めるらしい。この日はまず繁華街を一通り案内してくれたあと、屋台でたこ焼きを買うことになったが、どうやら注文内容を店員がうまく把握できなかったらしい。テンパりながら Andy とやりとりしている店員がよほど面白かったか、隣でそれを見ていた地元の方は漫才よろしく店員に突っ込みながら大きな声で笑っていた。全員にたこ焼きがまわって来たころ、自然と大阪人の陽気さと他の日本の都市との違いに参加者同士が話の花を咲かせた。
日が落ちてあたりがしっかり暗くなったら、このツアーのディープの所以がついに始まる。蛍光灯がしっかり輝く商店街通りから一本横道に逸れると、狭くてほぼ月明かりしかない裏路地が延々と続く。先頭に自信たっぷりに歩くガイドがいなければ、きっと存在を気づかない道や、気付いたとしても暗くて歩く気にならないような、そんな路地裏を本格的に歩き始めた。心もとない iPhone のライトを足元に当てて歩く途中途中、一見何もないところに指を差しては、その場に立ち止まってゆっくりと Andy が話を始める。草むらに隠れた古い家具、フェンスのそばに立てかけられたマネキン、細い行き止まりにある小さな神社、ブルーシートが掛けられた建物、そして量産スタイルの小さな新築物件などなど。旅行ガイドに載るような派手さがないどころか、地元の日々の暮らしそのものにしか見えないものばかりだったが、その裏にある営みの物語を聞かされると、そのチョイスの絶妙さに納得した。そしてなぜだか、はるか昔中学校の帰りに寄り道したときの楽しさを思い出させてくれた。ただもちろん、このツアーの参加者たちはもう子供たちではない。ツアーの最後にはしっかりと大人向けの内容で、暗い話から艶っぽい話まで、普段あまり話題に上らないトピックもちゃんと用意してくれた。詳細はもちろん、ツアー参加してのお楽しみ。
一通りツアーが終わったあと、食事オプションを選択人たちはガイドと一緒にレストランへ移動。食事はおまかせ注文で、各自が頼む飲み物代だけを自分持ち。一緒に暗い夜道を歩き回ってほどよく打ち解けたこともあり、参加者同士が食事をしながらそれぞれの旅の思い出を楽しく披露しあった。お酒もほどよくまわった解散前、Andy さんにおすすめのお好み焼き屋さんを教えてもらったので、その日のツアー参加者の殆どが翌日のお昼ごはんに再度集まった。こんな形の一期一会もまたとない良い思い出となった。ちなみにそのお好み焼き屋さんには入店まで1時間並ぶ必要があったが、味は本当に美味しかった。地元のおすすめ情報が気になる方は、Google の代わりにそれとなくガイドの方に聞いてみるのも良い収穫があるかもしれない。