湯量は多くない。確かだが沸き上るのがやっと感じるというくらいだ。
足元から濃厚なラジウム温泉が、ジワ~っと狼煙の様に上がってくる。
それで、湯舟の大きさからすると加水なしで湯温は熱めとなる。
この湯も、三徳川の水量によって湯量が変わるのかもしれない。
熱すぎる場合、加水することもあるが、適温になるのは入浴時だけだ。
別府、渋、野沢、湯ノ峰、湯河原など古湯で高温泉の外湯は皆その傾向がある。
大抵、使い始めは純度百%状態。使い方はそれぞれというわけだ。
あらためて、なんでもかんでも近代設備にすれば良いとは思わない故。
湯舟の在りかは、当然のように地下。やはり、浴室全体が暖かい。
脇には、棚や洗濯物を干す竿がある。また、飲泉専用の囲いがある。
じきに、ここは湯治目的の人達のための宿だったことがわかる。
川向いの木屋旅館でも、湯舟の有りようは同じ。だが、こちらは生活感がある。
泊まった部屋は、新装された方で快適だった。しかし、ここはやはり湯治宿だ。
温泉街は団体御用達時代の賑わいこそ無くなったが、まだ風情がある。
それに、ラジウムは温泉デパートの別府温泉にも唯一ない温泉成分だ。
ラジウムの効能にいわゆるホルミシス効果があると言う。
岡山大病院三朝医療センターと地元鳥取県医師会の三朝温泉病院がある。
医学的根拠に基づいた本格的な温泉治療がある医療施設は、国内に2カ所しかない。
ここの医療センターと、鹿児島大医学部付属病院霧島リハビリステーションだ。
効能に対し科学的に数値化されたとしても、人類と温泉の関わりは有史以前からだ。
温泉は単に浸かって気持ちが良いだけでなく、効能のなにかがあると信じられている。
日本における温泉研究はメジャーではなく、ヨーロッパに較べて遅れているらしい。
山菜や海の幸にも恵まれ、美作三湯も近く、湯治には退屈しない。
若い人がいずれ湯治を、と思うならこの宿は丁度いい教本となる。
三朝を代表する旅館大橋と、対照的な湯治宿は、道を挟んで向い合わせである。